緋色の迷宮 (文春文庫)

緋色の迷宮 (文春文庫)

特別なところのない、と書くと推理小説の脇役みたいだが、主人公がそう。何にも無頓着で、幸せに、生きてこられた男。そういう人は、ずっとそのまま、みたいなのが今まで読んだものの中では多かったけど、そういう主人公が「このことにもあのことにも、俺は気づいてなかったんだ」いろんなことをだんだん分かってくるようになっていく心の描写が魅力的。「気づいてない」のは自分の息子に幼児誘拐の嫌疑がかかってから崩されていくんだけど、とても痛々しくて、はらはらする。事実を尋ねていくときの、主人公の勇気みたいなものが、それはとても絶望的なんだけど、悪く言えば散文的に書かれてるので、かなり身近に感じられて面白かった。