レクトロ物語 (福音館文庫 物語)

レクトロ物語 (福音館文庫 物語)

この世界観好きだ。章ごとに、道路清掃とか、消防士とか、飛行船のびらまきとか、主人公レクトロが就く職業がさまざまで、都会の冷たさのなかで労働がとても魅力的に描かれている。そこで起こるハプニングの質がとてもファンシーだ。気に入ったのは「メロディーというものは一箇所に留まろうとしない」。失ったメロディーが町を旅してレクトロのもとにもどってくる話。終盤の、動物園の飼育係のところでは、インドに行って「輪廻という病気(!)」にかかった昔の友人フーゴーを日本鯉やライオンの中に見て、会話を交わしたりするのだが、精神を病んでいるともとれる、主人公を作者はあくまでも児童文学世界をこわさずに描写しきっている。(狂気がこんなにリアルに感じられる文学に出会ったことはない。)そして最終章のできのよさ。